標本がカビた

アライグマの頭骨標本がカビました。

 

完成した標本は出番が来るまで放置されるため、物によっては年単位で眠っています。これを今回取り出したところ、カビていました。私の最近の興味はカメに向いているため、食肉目の標本は出番少なめです。

f:id:turtlep:20240803102407j:imageカビたアライグマ

このアライグマは相当に老成した雄で、骨密度が異様に高く、また全体的に厚みがあります。良い標本です。

 

今回このカビに気づけたのは、アナグマの解剖をするにあたって学部生に中型哺乳類頭骨群を見せるためでした。解剖前の頭部と頭骨標本の比較、解剖で取り出した肉付きの頭部と頭骨標本の比較によって、頭骨群からアナグマの頭骨を見つけ出してもらうという趣旨でしたが、あっさり正解されてしまって問題にした意味がありませんでした。まあ、主題のある観察は深いものになるため、その役には立ったかと思います。

f:id:turtlep:20240803183250j:image頭骨群

 

件のアライグマは、エタノールで拭き取って事なきを得たものの、たくさんの標本がある中で、なぜアライグマだけがカビたのかという謎が残りました。脱脂が不十分というわけではないのに。何かご存知の方がいらしたら是非教えてください。

 

頭骨群は左からタヌキ、ハクビシンアナグマ、アライグマ、イヌ、コヨーテでした。

正解したあなた。なかなかの骨好きでいらっしゃいますね。

トド(雄)の骨格標本作成③

前回までで大きな肉の取り外しは終わりましたので、今日は細かな除肉を進めていきます。細かな、と言っても巨大なトドですので、まだまだ大量の肉を取り除きます。

 

f:id:turtlep:20240729134036j:image↑一晩煮込んだ

昨日、低温調理器具を60℃に設定したので、肉が煮えて相当に臭います。腐臭ではないものの、濃い海の臭いです。そして、鍋に収まりきらなかった後頭部の肉がジャーキーになってしまいました。


f:id:turtlep:20240729134039j:image↑ジャーキーをふやかす

とりあえずジャーキーのままでは除肉できないので、上下逆さにして60℃で煮込みます。

 

上顎を煮込んでいる間、下顎を除肉していきます。

f:id:turtlep:20240729134749j:image↑下顎

通常の食肉目と比較して、トドは下顎が極端に発達しています。厚みも幅も、多種とは一線を画します。大きな魚を口で捕らえて仕留めるという生態が関係しているのでしょうか。


f:id:turtlep:20240729135205j:image↑前から
下顎の門歯は2対で、弱々しいです。

 

トドの頭骨標本は必ずと言っていいほど下顎が接着剤で接合されています。なぜ左右に分離してしまったのか謎でしたが、この解剖で理由が明らかになりました。トドの下顎は骨同士が組み合っておらず、厚い膜を介してくっついていました。これではバラバラになってしまうのも仕方ないですね。

f:id:turtlep:20240729140045j:image↑厚い膜

 

下顎の除肉を進めるうちに、上顎のジャーキーもふやけて、除肉が概ね終わりました。

f:id:turtlep:20240729140319j:image↑頭骨

やはりトドの頭骨は大きいです。同じ最大頭骨長のトラと比べても、体積が大きく異なります。残念ながら、反対側は被弾によって大きく欠損してしまっています。
f:id:turtlep:20240729140316j:image↑反対側

 

この後は、一晩ポリデントに漬けて、取りきれなかった肉を柔らかくします。温度は40℃です。

f:id:turtlep:20240729140819j:imageポリデント

 

翌朝、ポリデントから引き揚げて、除肉を終わらせました。

f:id:turtlep:20240729141049j:image↑頭骨

最大頭骨長はおよそ38cmでした。平均的なサイズの雄のようです。


f:id:turtlep:20240729141052j:image↑大きな下顎

やはり下顎の発達が凄まじく、上顎と比較しても不釣り合いに感じます。また、腱の接着部に凹凸があり、腱とのつながりを強固にしているようです。

f:id:turtlep:20240729141047j:image↑凹凸

 

あとは、水に漬けて細かい肉を腐らせた後に、脱脂をすれば完了です。アセトンを使うには、ものが大きすぎて適当な容器が無いので、脱脂も水漬けで行う予定です。

 

これで、トド(雄)の骨格標本作成は一旦おしまいです。脱脂が終わった頃に、組み立て編のブログを書きます。

 

 

 

 

トド(雄)の骨格標本作成②

このページには解剖の写真が載っています。苦手な方はここで引き返して下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解凍したトドを解剖していきます。

解凍に伴って大量に血が出たので、血生臭いです。それ以外の臭いはあまりありません。少し海の匂いがする程度。

f:id:turtlep:20240726195704j:image↑血を洗い流した頭部

 

f:id:turtlep:20240726200019j:image↑立派な牙

トドがsea lionと呼ばれるのは雄の立派なたてがみが理由ですが、牙もライオンのように大きいです。切歯はところどころ折れてしまっています。


f:id:turtlep:20240726200025j:image↑寛椎

寛椎を外しました。トドの寛椎は大きいのですね。ライオンよりも大きいです。


f:id:turtlep:20240726200008j:image↑後頭顆

寛椎を外すと後頭顆が現れました。食肉目らしく、可動域の大きな頸です。

 

 

それでは、まずは皮を剥いでいきます。
f:id:turtlep:20240726200014j:image↑皮を剥ぐ

皮が分厚いので、どのくらいの厚さで剥ぐか悩みました。結局、筋肉と脂肪の境界で剥ぎました。

 

f:id:turtlep:20240726205927j:image↑剥皮完了

2時間ほどかけて剥皮を終えました。皮だけでも重く、5kgは優に超えています。今回は正中線で切り開かずに剥いでみました。また、目の周り、口と鼻もきれいに残せました。

 

f:id:turtlep:20240726210459j:image↑トドの中身

皮を剥いだトドの頭です。鼻の軟骨が突出しています。


f:id:turtlep:20240726210502j:image↑巨大な筋肉

後頭部にとんでもなく大きな筋肉がついています。雄の頭が盛り上がっているのは、この筋肉によるものです。


f:id:turtlep:20240726210509j:image↑銃創

剥皮中に気づきましたが、どうやらこの頭部は銃弾で砕けているようです。
f:id:turtlep:20240726210505j:image↑破砕

眼窩の骨が著しく砕けています。これはもう元に戻せないかもしれません。

 

f:id:turtlep:20240726211618j:image↑残念

中の篩骨も粉々になっています。

 


f:id:turtlep:20240726211932j:image↑筋肉を外す

気を取り直して、筋肉を外していきます。骨と筋肉の付き方がクマに近いです。

 

f:id:turtlep:20240726213805j:image↑大きな筋肉は外れた
f:id:turtlep:20240726213809j:image↑上から

除肉を進めると、頭骨の形が明らかになると共に、その破損具合も分かってきました。ヒビが四方八方に広がっているので、脱脂が終わる頃にはバラバラになってしまいそうです。右側の頬骨弓もぐちゃぐちゃでした。

 

f:id:turtlep:20240726214314j:image出てきた銃弾の破片

 

今日の作業はここまでです。

頭骨は電気鍋に入れて、60度で明日の朝まで煮込みます。

 

 

〜注記〜

銃弾による破損については、販売店様から手厚い補償と再発防止の説明がありました。

トド(雄)の骨格標本作成①

このページには、動物の遺体の写真が載っています。苦手な方はここで引き返して下さい。

 

 

 

 

 

 

先週行ったトドの解剖について綴ります。

1日目〜荷物到着〜

f:id:turtlep:20240726173838j:image↑トド頭

トドの頭部が届きました。担当者様にはあれこれとお願いをし、大変お世話になりました。

荷物の伝票には「中身:トド頭」と記載されていましたので、受け取った大学事務の方が大変驚いておられました。荷物受領後は事務室から実験室まで台車で運び、今は流しの中に安置してあります。解凍が終わり次第、解剖を始める予定です。

f:id:turtlep:20240716151010j:image↑圧倒的な存在感

解剖すると分からなくなることもあるので、外観は今のうちに観察しておきます。

f:id:turtlep:20240726162530j:image↑左側面から
f:id:turtlep:20240726162525j:image↑上から

鼻先から後頭部末端あたりまで、およそ48cm。重さは32kgでした。かなり大きいです。頭頂部が大きく隆起しているため、この個体は雄でしょう。

 

f:id:turtlep:20240726163928j:image↑ヒゲ

ヒゲはかなり硬質で、プラスチックのようでした。強く当たると痛いほどに硬いです。水中を高速で泳ぎながら周囲の情報を集めるには、これくらいピンと立っている必要があるようです。

f:id:turtlep:20240726164651j:image↑耳

アシカ科は小さな耳を持ちます。クルッと巻いてこの形になっていると思いきや、肉のトゲに溝を彫ったような構造でした。

 

以下、赤っぽい写真を載せます。

f:id:turtlep:20240726174908j:image↑断面

f:id:turtlep:20240726175808j:image↑背中側皮下脂肪
f:id:turtlep:20240726175811j:image↑喉側皮下脂肪

背中側の皮下脂肪はおよそ2cm、喉側の皮下脂肪はおよそ3cmでした。これは想定よりもかなり薄く、驚きました。イルカですと小さな個体でも最低3cmは皮下脂肪があります。体毛の有無が効いているのでしょうか。


f:id:turtlep:20240726175818j:image↑食道

なかなか特徴的です。


f:id:turtlep:20240726175815j:image↑ホネ

何やら大きなホネが見えています。頭骨が切断されているのではないかと少し焦りましたが、おそらくこれは寛椎です。

f:id:turtlep:20240726180353j:image↑少し除肉

少しだけ除肉して骨を出しました。頭骨ではなく寛椎で間違いありません。

 

次回は解剖です。

 

 

 

おまけ

アナグマロードキルを見つけました。

f:id:turtlep:20240726180907j:imageアナグマ

口、鼻、耳から大量に出血しています。頭骨にも損傷があります。

カミツキガメ探し(失敗)

熊本から千葉へやってきたのは、研究用のカメの標本を譲り受けるためでした。私は職業研究者ではありませんが、それでも研究を評価して協力してくださる機関があるのはありがたいことです。

 

標本を受領した後は、印旛沼カミツキガメを探すことにしました。ご存知の通り、カミツキガメは最大で甲長40cmを超える大きなカメで、強力なアゴを持つために市井では恐れられています。しかしながら、このカメは人を襲うような生き物ではありませんし、手出しすると危険というのは全ての野生動物に共通することです。カミツキガメを凶悪な危険生物として揶揄する風潮は居心地が悪いですね。ついでにもう一つ。自身と意見の合わない政治家をカミツキガメと表現する方がいらっしゃいますが、是非やめていただきたい。それ、下品ですよ。

亀が好きなあまり、話が外れてしまいました。日本に帰化したカミツキガメはホクベイカミツキガメと呼ばれる亜種で、その名の通り北米が原産地です。国内では数カ所で定着が確認されており、印旛沼はその一つです。当地では行政が主体となって駆除を進めており、一定の成果を上げています。

そう遠くない将来、国内でカミツキガメを見ることは難しくなると考え、この機会に野生のカミツキガメを観察しにいくことにしました。(冒頭で色々言いましたが、カミツキガメは野生動物ですから手を出すと危険です。発見した場合は、行政に連絡して任せましょう。また、当該生物は特定外来生物に指定されており、飼育や遺棄はもちろん、生きたままでの運搬も禁じられています。念の為書き記しておきます。)

 

最初に申し上げておきますが、カミツキガメは見つけられませんでした。

印旛沼北側の駅へ降り立ち、カメ探しの旅へ出発です。荷物は重たいスーツケースだけ。採集用具は何もありません。(痛恨のミス)

f:id:turtlep:20240725233904j:image広大な水田地帯

灼熱のアスファルト上を歩きながら、道路脇の水路を覗いていきます。九州には分布しないカエルを見つけて大喜びしました。
f:id:turtlep:20240725234928j:imageトウキョウダルマガエル

カエルの喜びも束の間、立っていられないほどの突風に見舞われました。後になって知ったのですが、この日埼玉では竜巻が発生したようです。

f:id:turtlep:20240726000350j:image暗い空

嵐の間は高架橋の下に身を顰め、カメ探しへ再出発しました。しばらく歩くとクサガメを発見。

f:id:turtlep:20240726001133j:imageクサガメ

拾い上げてみると、その甲羅の持ち主はとうの昔に死んでいました。

f:id:turtlep:20240726001447j:image既にホネ

 

しばらくして、またクサガメを見つけました。

f:id:turtlep:20240726001935j:imageまたクサガメ
f:id:turtlep:20240726001939j:imageまたまた
f:id:turtlep:20240726001942j:imageまたまたまた

 

これほどクサガメが優占して、ミシシッピアカミミガメがいないのも珍しいと思っていたら、ちゃんといました。(いてしまいました)

f:id:turtlep:20240726002626j:image去年産まれ
f:id:turtlep:20240726002623j:image一昨年か去年産まれ

あくまで感想ですが、クサガメは止水、ミドリガメは流水に多いようです。また、道中クサガメの遺骸を散見しました。外敵に襲われたのか、他に理由があるのかは分かりません。

f:id:turtlep:20240726003232j:image茂みで
f:id:turtlep:20240726003223j:image側溝横で
f:id:turtlep:20240726003241j:image側溝内で
f:id:turtlep:20240726003248j:imageこの個体は元気

その後も炎天下をひたすら歩き続け、日が落ちた頃に駅へ辿り着きました。大変つかれました。以下が今回の踏査の結果です。

 

クサガメ雄:1

クサガメ雌:25

クサガメ性別不明:7

ミシシッピアカミミガメ雌:3

ミシシッピアカミミガメ性別不明:6

スッポン性別不明:1

 

結局カミツキガメは見つけられませんでした。喜ぶべきことですが、正直に申しますと残念です。カメ研究者として一度は野生のカミツキガメを拝みたかった。今日は、カメ探しに敗退した話でした。

 

 

 

おまけ

 

f:id:turtlep:20240726005503j:imageザリガニたち

この側溝だけ、異様にザリガニが浅瀬に密集していました。水質の問題か、貧酸素か、そもそもそういうものなのか分かりませんが、仮に寄生虫によって天敵に捕食されやすい行動を強制されているとしたら興味深いと思います。


f:id:turtlep:20240726005500j:imageタヌキ

タヌキが白骨化していました。少なくとも数ヶ月は放置されていたようで、脱脂まで完了しています。流れた月日の割に状態が良く、頭骨は歯を含めて完全なものが取れそうです。食肉目の遺骸は、食肉目から忌避される結果、比較的原状を保ったまま白骨化するという指摘がありますが、それを支持するような状態でした。

以上、おまけでした。

長期不在と骨格標本作成

今日から1週間ほど、熊本を離れて千葉で過ごします。本来であれば今頃は東京にいるはずなのですが、新幹線の運休に伴って名古屋で足止めされています。困りました。

 

不在時に気がかりなのは除肉半ばの骨格標本たちです。冷凍庫に収まれば全て解決するのですが、ただいま冷凍庫はいっぱいのため他の対策を講じなければなりません。

f:id:turtlep:20240722111221j:image細かな肉の残るホネたち

対策と呼べるものではありませんが、水漬けにして放置することにしました。

f:id:turtlep:20240722111504j:image大きなゴミバケツへ詰め込む
f:id:turtlep:20240722111509j:image注水完了

フタをすれば1週間くらいは凌げるはず。本当は曝気しておきたいけれど、臭いが広がりそうなのでやめておきます。

 

 

以下、ロードキルの写真です。ご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



f:id:turtlep:20240722112132j:imageキツネとアナグマ

f:id:turtlep:20240722112207j:imageキツネ

 

直線の農道で、同所的にロードキルが発生していました。2匹とも毛並みの良い個体で、こんな所で死んでしまったのが悔やまれます。野生動物は野山で生きて野山で死ぬのがあるべき姿です。安全運転を心がけましょう。

余談ですが、今回のご遺体は頭骨に損傷がみられません。今までのロードキルは全て頭骨が粉砕していたので、これは稀有なことです。

水族館のトドと解剖準備

大分マリーンパレス水族館「うみたまご」に行ってきました。この水族館は海獣に力を入れており、トドもいます。

トドは北太平洋に生息する、アシカ科の最大種です。性的二型が発達することで知られ、オスの体重は最大で1000kgを超えるのに対しメスの体重は300kg程度に止まります。また、雄は頸部が著しく発達し、その部位が毛深くなることから英語圏ではsea lionと呼ばれるようです。

f:id:turtlep:20240715143041j:image雄トド(右前)と雌トド(左奥)

f:id:turtlep:20240715151050j:image雄トド

f:id:turtlep:20240715151153j:image雌トド

 

水族館のお土産に彼女がワニガメの鉛筆削りを買ってくれました。感謝。

f:id:turtlep:20240715164434j:image口に差し込んで削る構造

 

以下、生々しい写真を掲載します。苦手な方はここで引き返してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日、業者から購入したトドの頭部が届きます。北海道日本海側で捕獲された体重700kgの個体です。メス個体と聞いていますが、かなり大きいので恐らくオス個体でしょう。以下、送っていただいた写真を載せます。

f:id:turtlep:20240715145353j:imageフサフサの頸部


f:id:turtlep:20240715145347j:image大きい

到着後は丸一日解凍し、それから解剖します。食肉として解体されているのでお肉は食べる予定です。